東京の元都立高校教員です。第一報に接した時、ほぼ20年前に東京の都立七生養護学校で起こった事件を思い起こしました。七生養護学校に通う生徒の実態を見つめ、子どもの心と命が損なわれることのないよう学校ぐるみで培ってきた性教育の実践を「指導要領に沿っておらず不適切だ。」とする都議会議員らが学校に乗り込むなどして批判し、東京都教育委員会もこれを受けて、校長に降格・停職、教員ら31名に厳重注意処分を下した事件です。
この問題は裁判でも争われ、二件提起された裁判ではいずれも原告側(校長、元教員・保護者)の勝訴が確定しました。裁判で東京地裁は『教育内容の適否を短期間で判定するのは容易ではなく、いったん制裁的な取り扱いがされれば教員を委縮させて性教育の発展が阻害されかねない。」と判示しました。20年経っても問題の所在は共通ではないでしょうか。子どもたちの実態をみつめ、健やかな成長をはかるために教職員が知恵を集める実践こそ、子どもの最大利益につながるということです。
大学学長、付属小学校長の「謝罪」声明には残念な思いがしました。付属小学校長さんは学校のホームページのあいさつで子どもたちの現状を肯定した上で「目の前の子どもに対して「理想の子ども像」の型にはめようとせず、子どもたち自身の輝きを大事にしながら長期的な視野で子どもを育むという本校教職員が大切にする教育理念がはっきり見えます。そして、丁寧に議論し合う教職員集団としての共通理解がその根底にあり、きめ細かな教育実践と情熱に支えられているものだ」と教員集団を評価しています。校長さんにお願いしたいのは、まずはこの点でブレることなく、奈良教の教育と教職員集団を守るという姿勢に立ち、必要な対応についてはある意味「泥をかぶる」という覚悟で臨んでいただくことです。七生養護学校校長はそのスタンスがブレることなく七生の教育と教職員を守るために自ら処分を受けながらも教職員や保護者とともに歩み、「不当な介入」を跳ね返したのです。
七生事件の時、ある都議会議員は「生意気なことを言うな!このわけの分からない2人(養護教諭)は学校から出て行ってもらったっていいんだ」と発言しました。奈良教でそのような事態(「血の入れ替え」ともいうべき事態)が起こることを危惧します。一度根絶やしにされた土地でのちに芽が生えることはないのですから。