今回の事態は、奈良教育大学附属小学校(以下奈良教大附小)だけの問題ではなく、国公私立を問わず、附属学校をもつ全ての教育系大学に影響を与えかねない問題として、大変憂慮しています。
1つ目には、独立大学法人としての附属学校への管理強化を明確にした問題です。大学により附属学校との関係は異なるかと思いますが、私が園長を務めていた附属幼稚園では、学校評議員として複数の法人理事が参加していました。しかしその理事は、熱心に取り組んでいる結果として充足率を満たし、保護者や子どもたちの満足度が高ければ温かく受け止めて、保育内容等に逐一介入するようなことがありませんでした。しかし、今回の「報告書」では、教科書の使用、学習指導要領の徹底、校長のガバナンス等、微に入り細に入り、学長権限が及ぶ体制を強いる内容になっています。
2つ目には、附属学校に対する教育委員会の介入の問題です。「報告書」によれば奈良県教育委員会が学長に対して問題指摘したことが端緒であるだけではなく、その「報告書」の内容そのものが教育委員会の意向を完全に汲んだものと言わざるを得ないものとなっています。大学に対してここまで教育委員会が圧力をかけたことそのものが驚きです。免許更新制の「発展的解消」策として「大学と教育委員会との連携・協働」の強化が提言されていますが、今回の事態はその象徴的な具体化と言えます。
3つ目は、奈良教大附小に対して信頼を寄せて通学させている保護者や、学校を楽しんでいる子どもたちの思いに「報告書」は全く触れていない問題です。奈良教大附小は、『みんなのねがいでつくる学校』に見られるように、保護者・子ども・教員の奥底にある共通する願いを探り、子どもたちの発想や対話を重視して授業・学級づくりしてきました。文科省が推進する「主体的・対話的で深い学び」を、提起される以前から創造的実践的に追求していた学校であるのではないでしょうか。
全国で問題になっているいじめ、不登校・登校拒否等に見られる現象は、子どもたちの側から「学校」のあり方を問うています。そのような時代状況の中で、今回の事態は、子どもたちの願いを受け止めて「学校」のあり方を変えていくのではなく、むしろそれに逆行するものであると言わざるを得ません。